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テラコブログ

たまに戦車のプラモデルを作ります

椎名誠「水域」

実家に居た頃(おおむかしだ!)読んだつもりだったが、全く覚えてなかった。
本作の前に短編「水域」があるそうなので、ひょっとしたらそちらを読んでるのかもしれない。

水におおわれ陸地のなくなった世界を舞台に、孤独な男が流れ流される物語。
なぜ地球は水におおわれたのか? 奇怪な動植物はどこからきたのか? 人間社会はどうなっているのか?
「水域」はそういう説明がいっさいなくて、そこがよいと思う。

お話的には孤独な男が流れ流されるだけ。
退屈だと思うでしょう? ところがどっこいこれが静謐な緊迫感というんですかね、とにかく飽きる事がない。
ただただ干し肉が乾くのを見守っている情景さえ、楽しく読める。
水域を漂う中で、であって別れるヒト、モノ、コト、ちょっとした出会いがずしんとくる。

主人公はじめ、この世界に生きる人々はどこかでデカイなにかを「あらかじめあきらめている」と感じる。
だけど、そのずっとずっと奥底には人間ならではのしぶとさがあって、そこが滑稽にみえたり悲しかったり、とてつもなく泣けてきたりする。
創世の秘密を暴くでもなく、悪の組織に単身乗り込むでもなく、基本的に淡々と静かに流れていくのが面白くって仕方ない小説もあるんだなあ、と思った。

椎名誠は「旅にいってキャンプしてビール飲んでガハハハハー」みたいなイメージがあまりにも先行しすぎてて、ちょっと損していると思う。
もちろんそういうのも多いけれど、違ったテイストの小説やエッセイを、どんどんばんばん書いているのになあ。

水域 (講談社文庫)

水域 (講談社文庫)